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『オルタネート』加藤シゲアキ:高校生が自分を見つけ成長する物語

ぴよすけです。

 

甘酸っぱい経験、ガムシャラになっていた瞬間…

後で振り返ると少し恥ずかしい過ぎ去りし日々を糧に、人は日々前へ進んでいくものです。

そして過ぎ去った日々を青春と呼ぶんでしょうね。

青春をテーマにした小説は人の成長や在り方を考えさせてくれます。

 

今回紹介する『オルタネート』は高校生限定のSNSをテーマにした青春小説です。

高校生真っ只中の人だけでなく、かつて高校生だった人にとっても、共感できる一冊となっています。

 

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作品データ

 

作品データ著者:加藤シゲアキ

発表:2020年11月(新潮社)

第164回直木賞にノミネートされるも受賞ならず、その後2021年本屋大賞にもノミネートされました。

 

アイドルグループ「NEWS」の加藤シゲアキさん渾身の青春小説です。

直木賞にノミネートされた今作はメディアでも注目を集め、小説家・加藤シゲアキとして話題となりました。

 

【あの頃】の煌めき、そして新たな旅立ちを端正かつエモーショナルな筆致で紡ぐ、新時代の青春小説。

 

『オルタネート』あらすじ

舞台は高校生限定アプリ「オルタネート」が必須となった現代。

円明学園高校の高校生たちを中心に物語が動いていきます。

 

昨年の全国配信の料理コンテスト「ワンポーション」で起きたトラウマに苦しむ少女、蓉(いるる)

父親が経営する和食屋「新居見」の一人娘として育ち、今年の「ワンポーション」への参加を躊躇っています。

 

母親の生き方に葛藤を抱き、自分は何者か・絶対真実の愛とは何かをオルタネートを通して考える少女、凪津(なづ)

過去に囚われ、生まれ故郷である「亡霊の街」から逃げるように東京へやってきた少年、尚志(なおし)

 

生き方・考え方は三者三様…

その一方で

恋、友情、家族、そして人と繋がり

といった、高校生ならではの感性を緻密に描き出しています。

 


 

全体で380ページほどある長編小説ですが、章立て構成になっています。

1章あたり見開き5~7ページほどで、10分ほどで読み終える区切りがあります。

 

また軽快な表現で、中高生でも親しみやすい作品となっています。

 こんな人にオススメ
  • 中高生でも読める作品
  • 毎日コツコツと小説を読み進めたい
  • 胸が熱くなる青春小説を読みたい
  • 完成度の高い文学作品に触れたい
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おもな登場人物

以下の3人を中心に物語が進んでいきます。

新見蓉(にいみ いるる)

円明学園高校の3年生で調理部部長を務める。

父親は人気和食屋「新居見」を経営。

高校2年生のとき「ワンポーション」という料理コンテストに出場し、審査員から酷評された。

 

伴凪津(ばん なづ)

円明学園高校の1年生。

アプリ「オルタネート」のマッチング機能に絶対的な出会いを求めている。

母親と暮らし、母親の生き方に葛藤を抱いている。

 

楤岡尚志(たらおか なおし)

大阪の高校を退学した関西弁男子。

ドラムを愛し、友人・安辺豊(あんべゆたか)のギターに熱いものを感じていた。

豊に会うため上京し、円明学園高校に侵入する。

 

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『オルタネート』を読んだ感想

SNS「オルタネート」のある高校生活

タイトルの「オルタネート」とは、作中に登場する架空のSNSのことを指します。

 

動画をアップロードし閲覧できる機能、メッセージを送り合う機能、相性がいい相手を自動で選ぶマッチング機能など、現代社会でも多くの人が使用している一般的なSNSの高校生限定バージョンのアプリです。

高校生限定SNSアプリ「オルタネート」では、お互いがフロウを送り合うことでコネクトとなり、メッセージなど直接のやりとりが可能となる。

 

120万人の高校生が利用しており、必ずしも恋愛だけのために利用されるわけではないこのSNSアプリは、作中の高校生にとってほぼ必須のツールとなっています。

 

そしてこの物語は「SNSの問題点を指摘するような作品」ではありません。

アプリを通して出会った人物とどう向き合うか、どう生きるかを丁寧に描いています。

 

印象的な場面として、同じ学校内で直接話しかけにくい相手でも、フロウを送りコネクトしてメッセージをやりとりし合うシーンがありました。

リアルでは抵抗感があってもスマホを介してだったら繋がれるという部分は、現代社会を生きる高校生を如実に描いています。

 

 

カバー表紙には光の加減でオルタネートのアプリロゴマークが浮き出る仕掛けがあり、こだわりが感じられます。

 

みずみずしい青春小説

『オルタネート』を読んで、人が内に秘めている熱い思いというのは、悩みに近いものでもあると感じました。

 

今回のお話は高校が舞台となっており、帯には「青春小説」との文言があります。

ありきたりな言葉ですが、高校生ならではのみずみずしさを感じられる作品でした。

 

高校生ってたくさん悩みますけど、悩むということは何か「熱い思い」を持っているということだと気づかされます。

 

序盤は蓉、凪津、尚志の3人の視点から順に語られています。

オルタネートを用いながら(あるいは用いないながら)高校生という不安定な時期で自分を探るあたりが青春小説でした。

 

読み進めるとそれぞれの視点で一部分だけ他の章と重なっていることに気付くことができます。

 

そして物語終盤に向かい、3人のお話は鮮やかに収斂されていきます。

結末に向かう部分は見事に重なり合い、残り100ページあたりから一気に読み進めてしまいました。

3人の視点で始まっていた作品も、誰が中心人物かではなく、誰もが中心となり得る作品となっていきます。

 


 

ストーリー的な展開で面白さを見出すのは、おそらく「ワンポーション」で昨年の結果を超えようと試行錯誤を繰り返す蓉の視点です。

読んでいてもこの先の展開がどうなるのか気になるメインストーリーとも言えるのではないでしょうか。

 

しかし個人的には、帯のコピーにある「私は、私を育てていく」という言葉に深く関係している凪津が中心だと感じました。

中心というよりも、多くの人が経験する青春の歯がゆさみたいなものを表現しているのが凪津かと思います。

 

自分のルーツや存在意義に疑問を持ち、誰かと繋がりたいけど家族を受け入れることを拒絶する…

それでいて結末部分でも蓉のように何か劇的な一大イベントや出来事があるわけでもない…

「私は、私を育てていく」という凪津に関係したこの言葉は、人が成長する過程を端的に表現したキャッチフレーズだと感じました。

 


 

3人のどの視点が好みか(あるいは共感できるか)はあるにせよ、終盤に向かうにつれて物語に熱を帯びていくさまは、読んでいる人の胸を熱くさせます。

 

完成度の高さと著者の感性

小説の物語性とは別に、個人的に素晴らしいと感じたのが著者である加藤シゲアキさんの感性や作品制作に対する熱意です。

物語の内容面を強化する要素として、海外の詩の引用や音楽など、多岐にわたる分野からの専門知識が散りばめられていました。

 

たとえば冒頭のメンデルの法則ひとつとっても、参考文献を用いるなどして詳しく述べられています。

グレゴール・メンデルは修道院の庭に三十四種のエンドウを育て、二百八十七輪の花をひとつひとつ手で授粉しながら遺伝に関する実験を行った結果、ある数学的な規則性を発見しました。今日ではそのメンデルの法則は多方に知られることとなり、市場に出回る野菜のほとんどはこの法則に由来する雑種第一代、通称『F1種』になっています、と笹川先生が土を混ぜるようにしながら話した。

 

そしてわざわざメンデルの法則を用いた結果、遺伝子という部分で凪津のストーリーに生きてきます

凪津パートの一部にある「自分のルーツを知る遺伝子検査」も、かなり詳しく取材し勉強されたと感じました。

 

おそらく著者の加藤さんは日常生活でも些細なことでも興味を持ち、小説のストーリーに華を添える素材を常日頃から考えているのではないでしょうか

 

自分の専門外な知識でも興味を持って小説の素材とする姿勢が、高い完成度を誇る作品を生み出すのだと感じました。

 

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個人的に惜しいと思った点

良作な青春小説だからこそ気になったのが、作中の登場人物の性別がわからなかった点です。

 

想像を膨らませながら読むうえで欠かせないのが人物像

小説は文字のみでキャラクター性を持たせていくため、名前の響きや字面にインパクトを持たせる重要性は理解できます。

ただ、その重要性を以ってしても「蓉」「ランディ」「笹川先生」など性別がわかりづらかった登場人物が多数出てきました。

 

「マコさん」は少し読み進めれば性別に関する手掛かりが出てきましたが…

特に「蓉」と「笹川先生」は途中まできて「え、女性だったの?」という驚きがありました。

 

本作は最近話題になっているジェンダーや同性愛についての問題も取り上げている作品です。

加藤さんが意図して性別が重要ではないという考えのもとに物語を紡いでいるのかが気になりました。

「蓉」という個人がどう生きていくのかが重要であって女性であることがさして重要ではないという意図的な作品展開をしたのであれば、読み手がその土俵に乗ることで作品に深みが増すと思います。

 

しかしそうでなければ単純に性別がわからないまま話が進行するので、他の部分での評価が高い分、惜しいと感じました。

 

小説は読んで想像を掻き立てるものでもあります。

途中まで性別不明な登場人物がいたら、読みづらいという意識を持ってしまう読者もいるのかなと感じました。

 

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メディアで話題となった作品だから…

個人的に惜しい点も述べましたが、レベルが高い作品だと感じたからこそもったいないと思いました。

 

私はジャニーズが好きなわけでも嫌いなわけでもありませんし、加藤さん個人についてもほとんど知りません。

ひとつ言えるのは、『オルタネート』はアイドルグループの一人が片手間で小説を書いたレベルの作品ではないということです。

 

直木賞にノミネートされた作品だ、アイドルが書いた作品だ、とメディアが騒ぎ立てた本作を身構えて読むのではせっかくの作品がつまらないものに思えてしまいます

 

これから読もうと思っている方は、周囲の評価に踊らされず、一読してみる価値はあります。

読み終わって考察サイトを巡って本記事に辿り着いた方は、「そういう作品の見方もあるのか」という鑑賞の一助になれば幸いです。

【あの頃】の煌めき、そして新たな旅立ちを端正かつエモーショナルな筆致で紡ぐ、新時代の青春小説。

 

最後までお読みいただきありがとうございました。
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