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『コンビニ人間』芥川賞受賞の話題作のテーマは「生きづらさ」

ぴよすけです。

 

コンビニエンスストアは現代社会で欠かせない小売業の一つとなりました。

今回はコンビニ店員を題材とした小説、村田沙耶香さんの『コンビニ人間』の紹介です。

題材自体は軽めのテイストなのに現在の日本社会での問題点を突いていて、人との関わり方・生き方を考えさせられる作品です。

 

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作品紹介

作品データ作者:村田沙耶香
発表:2016年7月(文藝春秋)
第155回芥川賞受賞作。
約150ページで、サクサク読み進めることができます。

 

あらすじ

36歳未婚女性、古倉恵子。
大学卒業後も就職せず、コンビニのバイトは18年目。これまで彼氏なし。
日々食べるのはコンビニ食、夢の中でもコンビニのレジを打ち、
清潔なコンビニの風景と「いらっしゃいませ!」の掛け声が、毎日の安らかな眠りをもたらしてくれる。
ある日、婚活目的の新入り男性、白羽がやってきて、そんなコンビニ的生き方は恥ずかしいと突きつけられるが……。

コンビニこそが、私を世界の正常な部品にしてくれる――

コンビニという身近な題材でここまで深掘りできる視点に感服させられました。

この作品では「世界」「普通」「異物」などの価値観に関するワードがポイントとなります。

「普通」とは何か?現代の実存を軽やかに問う第155回芥川賞受賞作。36歳未婚、彼氏なし。コンビニのバイト歴18年目の古倉恵子。日々コンビニ食を食べ、夢の中でもレジを打ち、「店員」でいるときのみ世界の歯車になれる――。「いらっしゃいませー!!」お客様がたてる音に負けじと、今日も声を張り上げる。ある日、婚活目的の新入り男性・白羽がやってきて、そんなコンビニ的生き方は恥ずかしい、と突きつけられるが……。
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古倉恵子の異物感「普通」とは何か

「普通はそんなことしない」とか「普通はこうする」という言い方を、我々もしますよね?

この物語では「普通」とは何かを鋭く描いています。

帯には「『普通』とは何か?現代の実存を軽やかに問う衝撃作」の文字。

まさに、生きる人ひとり一人にとっての「普通」を問う作品です。

 

主人公の古倉恵子は、子どものころから「言われたとおり」「思ったとおり」のことをしてしまい、周囲から奇異な視線を向けられます。

いわゆる「空気が読めない」ような女性像で描かれています。

 

両親や妹は「治す」「治る」などの言葉を使うため、恵子は何か普通ではない部分があることに気付きます。

しかし、本人はいたって真面目に「何がいけなかったのか」がわからないのです。

 

古倉恵子は発達障害?

最近では「発達障害」というカテゴリーが浸透し、個性という言い方で社会が受け入れていくようになりました。

読み進めて、おそらく主人公の恵子は発達障害傾向の女性だと感じました。

 

発達障害とは、近年浸透している発達上の(特に対人関係での)障害です。

・生まれつきの脳の障害のために言葉の発達が遅い
・対人関係をうまく築くことができない
・特定分野の勉学が極端に苦手
・落ち着きがない
・集団生活が苦手

 

このような特徴がみられた場合、専門医を受診し「発達障害」という診断が下されます。

 

本作では両親にカウンセリングに連れていかれたことがあるという記述はあるものの、専門医から診断を下されたとの表現はないため、曖昧なままです。

「どうすれば『治る』のかしらね」
母と父が相談しているのを聞き、自分は何かを修正しなければならないのだなあ、と思ったのを覚えている。
(中略)
私は「治らなくては」と思いながら、どんどん大人になっていった。
P.13

いわゆるグレーゾーンと言われる人で、36歳まで生活してきたという設定でしょう。

グレーゾーンとは?
発達障害はきちんとした医師のもとで下される診断結果なので、「少しおかしい」と思っても受診していなければ発達障害とは言えません。

少し変わった子と思っても病院を受診していない場合、いわゆるグレーゾーンと言われています。

程度は様々で、日常生活に支障をきたすレベルであれば受診させるのが一般的ですが、ある程度の学力や思考力があるものの部分的な支障であれば病院を受診させずに「少し変わった子」という理解で過ごしてしまう人もいます。

グレーゾーンがいけないわけではないし、本人が受け入れるかどうかなどの問題もあるため、少し変わった子という認識で過ごしている家庭もあります。

 

白羽は発達障害?

作中に登場する白羽は読んだ感じでは発達障害ではない人として描かれていると感じました。

見た目の描写や発言から、集団においての社会性はあまりなさそうですね。

アルバイト募集の理由も婚活という部分から、単純に人との関わり方が下手な人物として描かれています。

 

話は逸れますが、白羽の態度には日常的なリアリティが描かれています。

「白羽さん、さっき頼んだフェイスアップなんですけど、まだ終わってないんですか?」
「いや、あれで終わりですけど?」
白羽さんがマニュアルから目を離さないので、私は近づいて元気な声を出した。
「白羽さん、まずはマニュアルよりフェイスアップです!フェイスアップと声掛けは、基本中の基本ですよー!わからなかったら一緒にやりましょう!」P.48

この白羽さんの態度、こういう人いるよなぁと共感できます。

 

一方、個人的に共感できないのが白羽を注意している恵子。

自分が恵子の立場だったら、誰かに愚痴ったり、怒ったりしているかもしれません。

しかし、恵子はその後も自分のテンションで語ります。

「白羽さん!今は現代ですよ!コンビニ店員はみんな男でも女でもなく店員です!あ、バックルームに在庫があるんで、それを並べる仕事も一緒に覚えちゃいましょう!」P.49

 

人の言葉を額面通りに受け取り、その奥にある本質的な気持ちにたどり着かない恵子と白羽のやりとりが、妙にリアルだと感じました。

 

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賛否両論がある結末部分

恵子は「自分はコンビニ人間である」という自覚を持ち、物語は閉じます。

恵子にとっては、自我の獲得・アイデンティティの確立がなされたといってもいいでしょう。

 

「自分が何者か」というテーマで書かれた作品は多いです。

この作品は自分がどうあるべきかを認識できた状態で終わりを迎えているため、恵子本人の立場から見れば、ある意味クローズドエンドといえるでしょう。

自分がコンビニの店員として生きていくという方向性が明確になったわけですから。

 

しかし恵子の親・妹、もしくは読者からしたら、「この先もこの人はコンビニでしか生きられないの?」「他に生きる選択肢を広げたほうがいいのでは?」という思いもあり、クローズドエンドとは捉えづらい終わり方です。

むしろ今後の恵子の生き方を考えさせられるという観点では、オープンエンドでしょう。

 

当たり前ですが、物語は結末がないと話が閉じないため、終わり方に賛否が集まるのは当然です。

読み手は現実世界ではどうかというフィードバックをしてしまうため、作品の終わり方に疑問を持ってしまう人もいるかと思われます。

 

恵子自身が自分の在り方を見つけられたと感じるのか、今後の恵子の行く末を案じてしまうのか…

個人的には上手な終わり方をされているなぁと感じました。

 

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生きづらさを描く上手さ

『推し、燃ゆ』の読後も感じましたが、主人公が周囲とのズレ・ギャップを感じている作品は、作者がどう表現するかがカギとなります。

 

この作品を客観的に読めた自分は、いってみれば「普通の人」なんだと思います。

 

しかし世の中に目を向ければ、片付けができない・空気を読めない・仕事が覚えられないなど多くの人がいます。

そのような人の中には「自分は片付けがしたいけど、やり方がわからない」「空気を読みたいけど、意図せず言葉を発してしまう」「仕事をしたいけど、どうすればいいかわからない」など、困り感を抱えている人もいます。

 

特徴や個性という言葉で人を尊重する風潮が浸透してきた一方、そういう人たちがどういう部分で困っているの、どういう気持ちを抱えているのかという「生き方」にフォーカスされることが少ないです。

 

『コンビニ人間』のように、軽快な書きぶりでストレートな心情表現がある作品は、読み手にとって「問題作」「話題作」となるのでしょう。

 

「普通」とは何か?現代の実存を軽やかに問う第155回芥川賞受賞作。36歳未婚、彼氏なし。コンビニのバイト歴18年目の古倉恵子。日々コンビニ食を食べ、夢の中でもレジを打ち、「店員」でいるときのみ世界の歯車になれる――。「いらっしゃいませー!!」お客様がたてる音に負けじと、今日も声を張り上げる。ある日、婚活目的の新入り男性・白羽がやってきて、そんなコンビニ的生き方は恥ずかしい、と突きつけられるが……。

最後までお読みいただきありがとうございました。
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