戦争をテーマにした作品は数多くありますが…
その中でも特にぴよすけが秀逸な作品だと思ったのが『この世界の片隅に』です。
いわゆる戦争モノの作品です。
戦争を題材にした作品だと、戦争の悲惨さやリアルな惨状がクローズアップされがちですが、『この世界の片隅に』はこれまで読んできた作品とは一線を画すようなものでした。
この記事では『この世界の片隅に』の3つの魅力をお伝えします。
作品データ
『この世界の片隅に』の作品データです。
作品データ作者:こうの史代
発表:2016年
作者のこうの史代さんは広島県出身で、他にも戦争を題材に作品を描いています。
同じく原爆後の世界を描いたこうの史代さんの作品『夕凪の街 桜の国』のあらすじと感想をまとめた記事はこちらからご覧ください。
ぴよすけです。この記事ではこうの史代さんの『夕凪の街 桜の国』についてのあらすじと感想、気になった点を記しています。 この作品は文化庁メディア芸術祭大賞作品でもあり、映画化やドラマ化もさ[…]
魅力①:丁寧に描かれた人々の日常
『この世界の片隅に』の一番の魅力と言っても過言ではないのが、丁寧に描かれている人々の日常です。
主人公すずのごくごく当たり前な日常を描きつつ、当時の戦争下での人々の営みがリアルに表現されています。
当時の制度
現在では見られない第二次世界大戦下での制度が、人々の生活の中でどのように影響していたかが触れられています。
例えば配給制度の場面があります。
この配給制度は作中に何度も登場し、「あ、また配給の場面だ」となります。

配給のシーンでは近所同士の協力のもと成り立っていた様子が描かれており、改めてご近所さんとの関係づくりが大事だと気づかされました。
他にも憲兵が登場し、絵を描いていたすずにスパイ疑惑がかかる話など、今の社会からは想像できないような部分も丁寧に描写されています。

言葉遣い
舞台は広島なので、登場する人物たちは広島弁を用います。
また現在では使われなくなった(もしくは滅多に聞かなくなった)言葉もたくさん登場します。
もしかしたら初めて読む人にとって「?」という言葉もあるかもしれませんが、前後の文脈から読み取ることはできますのでご安心を。
当時の言葉遣いや方言が作品にリアリティを持たせています。
昔ならではの…
舞台となる時代は今から約75年前になります。
当然、現在とは異なる生活様式が多々描かれています。

短くなった鉛筆をここまで使う…当時ならではですね。
ぴよすけが子供のときにも、親から鉛筆が短くなっても「まだ使える」と教わりましたが…
ここまでの短さはなかなか現代では目にしませんね。
結婚や家庭の様子は特に大きく違い、読んでいて「え?もう結婚したの?」と思うような驚きもあります。
ちなみに昔の結婚についてはこちらの記事でもまとめていますのでご覧ください。
他にも現在と違う多くの生活が描かれていますよ。
魅力②:個性あふれる登場人物
『この世界の片隅に』は主人公であるすずという少女の物語です。
読み終えたあとは、すずの魅力ある人柄に涙しました。
絵を描くことが大好き、懸命に家に尽くす姿、ちょっとドジっ子(いやな感じではない)、人とのつながりを大切にする姿勢…
読み始めは作者であるこうの史代さんの描き方がうまいのかと思いましたが…
読み終えた今、当時の人たちはマンガでないリアルな世界でも、すずのようにまっすぐな人柄の人が大勢いたのかと思うようになりました。
そう考えた理由はSNSをはじめとする情報インフラの発達です。
今ではいつでもどこでも誰とでもつながれてしまい、簡単につながりが切れてしまいます。
時代背景を考えれば、出会った人たちとの関係づくりというのは本当にきちんとしなければならないものだった…
だからこそ人に対して真摯に向き合える時代でもあったのかなぁと感じました。
すず以外にもお兄ちゃん(鬼イチャン)や、すずの嫁ぎ先の家族など、魅力あふれる人物たちが登場します。
セリフがないコマでも、どういうことを考えてるんだろうと思わずにいられないほど、人物に感情移入できました。
魅力③:一貫したテーマ性
一貫して戦争弱者が生きる世界を描いています。
読んで感じたキーワードは「淡々と過ぎ去っていく日常」です。
このマンガは1話ごとに「〇年〇月」という形で進行していきます。
季節に合った出来事がお話のメインに据えられていますが、読み進めれば当然「〇年〇月」は進行します。
当然、今を生きる我々は過去の戦争がどういう結末を迎えたのかを学んでいるため、「8月6日」を迎えるとどうなってしまうのかがわかってしまいます。
しかし、作中の人物たちは当たり前ですが「これからこうなる」という部分を知りません。
終盤、原爆が投下されたシーンもありますが、それまでに35話近くの日常が描かれています。
1話1話読み進めていくと物語内では淡々と日々が過ぎ去っていきます。
淡々と過ぎる日常の中、予測不可能な未来を迎える立場になって読み進めるというのは、戦争を語り継ぐ上で必要なことだと思いました。
また、同じ戦争をテーマにしたマンガ作品だと『はだしのゲン』が有名でしょう。
『はだしのゲン』も原爆をテーマに描かれ、もちろん日常生活も描かれていますが…
どちらかというと原爆の悲惨さがクローズアップされています。
対して『この世界の片隅に』は原爆投下前も後もあくまで日常を描くことに徹しています。
・原爆が落ちた日、少し離れた場所にいた人はどう過ごしていたのか
・終戦を迎えた日、人々はラジオの前でどう過ごしていたのか
・終戦後、人々の生活はどう変わっていったのか
淡々と過ぎ去っていく日々にどう向き合うのか、これまで読んだ戦争モノとはまた違った描かれ方をしている作品です。
作りこまれた逸品をぜひ
人の死も描かれているため、涙が出ました。
しかし「この作品、泣かせにきてるなぁ」感はありません。
自然と涙が出る感じです。
大切な人の死は(事件だろうと事故だろうと病気だろうと)ほぼ偶然起きてしまうことが多いです。
小説やアニメ、マンガなどの創作作品に関しては、どうしても感動ポイントのような作者が意図的に場面を作るような作品が見受けられます。
『この世界の片隅に』はあまり意図的な感動ポイントを感じさせず、読み終わった後に自然と涙が出てくるような作品です。
例えるなら現実世界で大切な誰かが亡くなったときのような涙の出方。
一コマに込められた意味を考えながら読み進めることで、読者もその世界ですずと一緒に生きることができるような作品だと感じました。
そして決して美談で終わる内容ではない、露骨なくらいに人々の暮らしに密着した描き方に心揺さぶられる作品となっています。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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