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高村光太郎「レモン哀歌」色鮮やかな死別のとき、レモンの果汁が降ってくる

レモンが苦手なぴよすけです。

 

今回は高村光太郎の名作「レモン哀歌」について紹介します。

 

「レモン哀歌」は、高村光太郎が妻の智恵子の死に際を題材に詠んだ詩です。

死別という悲しさがありながら、レモンの持つみずみずしさや明るさを含んだ名作です。

レモン哀歌

そんなにもあなたはレモンを待つてゐた
かなしく白くあかるい死の床で
わたしの手からとつた一つのレモンを
あなたのきれいな歯ががりりと噛んだ
トパアズいろの香気が立つ
その数滴の天のものなるレモンの汁は
ぱつとあなたの意識を正常にした
あなたの青く澄んだ眼がかすかに笑ふ
わたしの手を握るあなたの力の健康さよ
あなたの咽喉に嵐はあるが
かういふ命の瀬戸ぎはに
智恵子はもとの智恵子となり
生涯の愛を一瞬にかたむけた
それからひと時
昔山巓でしたやうな深呼吸を一つして
あなたの機関はそれなり止まつた
写真の前に挿した桜の花かげに
すずしく光るレモンを今日も置かう

出典:『智恵子抄』高村光太郎

 

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「レモン哀歌」について

作品データ作者:高村光太郎
発表:1941年(『智恵子抄』に収録)

中学・高校の教科書にも採録されているため、目にしたことがある人も多いでしょう。

この「レモン哀歌」は、宮沢賢治の「永訣の朝」という詩に影響を受けたと言われています。

 

宮澤賢治「永訣の朝」についての記事はこちら▼

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また「レモン哀歌」と梶井基次郎の『檸檬』は、米津玄師さんの代名詞とも言える楽曲「Lemon」の作詞に影響を受けたそうです。

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TBS金曜ドラマ「アンナチュラル」主題歌New Single 『 Lemon 』2018.3.14 RELEASEhtt…

確かに「レモン」って文学的なニュアンスがあるとは思ってて。他にも高村光太郎の『智恵子抄』(「レモン哀歌」)とか。そういうものからレモンが無意識的に自分の頭の中にはあって、そこから出てきたっていう面はあるかもしれないです。

出典:Billboard Japan

 

梶井基次郎の作品『檸檬』についての記事はこちら▼

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鮮やかな色彩イメージ

この詩は想像力を掻き立てるのが上手な詩です。

レモン=黄色
きれいな歯=白
トパアズいろ=宝石のもつ様々な色
桜の花かげ=ピンク

単純に「白」という表現よりも、「きれいな歯=白」というほうがどういった白さなのかを想像できますよね?

おそらくここで想像する白は、つやがあってきらりとした白ではないでしょうか?

 

短い詩の中で読み手に情景を想像させるテクニックがあります。

 

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死を感じさせない美しさ

「レモン哀歌」には死別の時を感じさせない明るさや美しさがあります。

先述した「鮮やかな色彩」がその効果を持たせているのでしょう。

 

また、智恵子の死を迎えたあとのこのフレーズ。

写真の前に挿した桜の花かげに
すずしく光るレモンを今日も置かう

 

深い悲しみに暮れているはずなのに、レモンが涼しく光っている…だと!?

 

「死=暗い」というイメージを、正反対である「光る」という言葉を用いて表現しています。

ある意味、光太郎の智恵子へのはなむけの詩となっています。

 

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なぜレモンなのか?

レモンが何を象徴しているのかは、読み手に委ねられています。

 

みずみずしさがある果実を詩題にすることで、死別という場面をよりリアルに表現できるものだったのかもしれません。

 

また、梶井基次郎は小説『檸檬』で、やはり色彩鮮やかな場面を描いています。

レモンイエローと言われる鮮やかな黄色が、当時の文筆家たちに明るさをもたらすものだったのでしょう。

 

「天のものなるレモンの汁」について

話は逸れますが、レモンの果汁については宮澤賢治「永訣の朝」の影響を受けていると思われます。

その数滴の天のものなるレモンの汁は
ぱつとあなたの意識を正常にした

 

「永訣の朝」では、やはり死の床にある妹・トシが賢治に空から降ってくる霙(みぞれ)を取ってくるように頼んでいます。

妹の依頼を受けた賢治は、トシの願いを叶えようと外へ飛び出します。

 

「レモン哀歌」で、智恵子は光太郎に「レモンをおくれ」など依頼はしていません。

が、「レモン哀歌」では智恵子目線で見ると、天から「レモンの汁」が降ってきています

 

光太郎ができることをしたことで、千恵子の意識を正常にさせ、死の前に一瞬だけでも二人が通じ合うというシーンは、宮澤賢治「永訣の朝」に通ずるものがあります。

 

「レモンの汁」が天から降ってきたことは、「永訣の朝」で霙が空から降ってきたこととほぼ同じような意味合いを持っています。

智恵子は死を経て天に向かうという考えが光太郎にあったのかもしれません。

だから今日も「レモンを置かう」なんでしょうね。

 

 

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