ぴよすけです。
巷で話題の『桜のような僕の恋人』を読みました。
2017年に発売され、これまで26万部(2020年5月時点)が売れています。
作品タイトルは耳にしたことがありましたが、なかなか手に取って読む機会が今までなかったのが悔やまれるくらいの感動しました。
この感動冷めやらぬうちに、『桜のような僕の恋人』を読んで感じたこと・考えたことを記事にしました。
作品データ
作品についてのまとめです。
作品データ作者:宇山佳佑
発表:2017年(集英社文庫)
あらすじ抜粋
単行本裏表紙から抜粋しました。
美容師の美咲に恋をした晴人。
彼女に認めてもらいたい一心で、一度は諦めたカメラマンの夢を再び目指すことに。
そんな晴人に美咲も惹かれ、やがて二人は恋人同士になる。
しかし、幸せな時間は長くは続かなかった。
美咲は、人の何十倍もの早さで年老いる難病を発症してしまったのだ。
老婆になっていく姿を晴人にだけは見せたくないと悩む美咲は…。
桜のように儚く美しい恋の物語。
引用:『桜のような僕の恋人』宇山佳佑(2017年)
半日かからずに読める作品
ぴよすけは4時間かからず、早い人だと3時間少々、遅くとも半日あれば読めます。
ストーリーで難解な部分もなく、多少物語を先読みしながら読める作品です。
あらすじでほぼ物語の根幹を伝えてしまっているので、あらすじを読んでしまった人にとっては多少肩透かしをくらったような…
だからといって、作品すべてが裏表紙のあらすじに書かれているわけではないのでご安心を!
裏表紙を読んでもきちんと楽しめる作品ですよ。
先にだいたいの話の流れを知っておきたい人は、このくらいのあらすじがあったほうが読みやすく感じるかもしれません。
物語が目まぐるしく大きく動くというより、人物の心情が丁寧に描かれている作品です。
「桜のような僕の恋人」登場人物
『桜のような僕の恋人』では、晴人・美咲・貴司・綾乃の4人の視点を交互に織り交ぜながら物語が進んでいきます。
終盤に向かうにつれ、それぞれの人物の過去や苦悩、思いがより鮮明になります。
朝倉晴人・有馬美咲
本作の主人公とヒロイン。
美咲が主人公と勘違いするくらい美咲の心情もたっぷり描かれています。
美咲の働く美容院に晴人が訪れたことがきっかけで、晴人が美咲に恋をします。
2人の出会いと生き方
晴人と美咲が出会い、恋人になるまでの軽快さが印象に残ります。
話し言葉に近い文体で語られている地の文は、特に若い人にとって読みやすいのではないかと。
晴人は耳たぶ切り落とし事件をきっかけにデートの約束をしますが、ここまでは少しありがちなお話かと。(耳たぶを落とすことはありがちではないが)
新鮮だったのはデートでの美咲の説教です。
今までこんなストレートに説教する女性が登場する小説を読んだことがない、と思うくらい痛快でした。
てっきり、デートに誘えたところからポンポンっと付き合う流れかと思いきや、説教とは…
たしかにデートに誘ってそのまま恋人同士になったら、世間にありふれた恋愛小説の一つとして埋もれてしまうでしょう。
美咲の言い分が文字化していてもきちんと伝わる部分が上手に書かれていました。
人の生き方に向き合ったやりとりがあるからこそ、後半部分のおもしろさが増すんでしょうね。
働くこと・生きること
晴人はカメラマン(志望)、美咲は美容師です。
作中では2人の職業人としてどのような目標を持つか、また仕事に取り組む姿勢などが細かく描かれています。
仕事に対する悩みや職場環境…現実世界で働く者として共感する部分がありました。
この作品には「仕事・職業=夢を叶える」ということが何度か登場します。
・学生のころ進路について考えたとき「将来なりたい職業」という視点を思い出させてくれました。
・社会人として働き始めて「本当は何がしたかったのか」という働く意義を考えさせられました。
・職場で怒られた時「なぜ今働いているのだろうか」という生き方も想像させてくれました。
・働けなくなった時に「もっと仕事をしたかった」という悔やまれる思いを知りました。
「働くこと」を人物の「生き方」とともに表現しており、生きている限り悩むであろう根源的な問いを描いている作品です。
その他の人物
兄の貴司と綾乃、美咲の担当医である神谷医師などが登場します。
貴司は妹のために詐欺に遭ってしまうほど「妹LOVE」です。決してシスコンではない
居酒屋を営んでいることから、料理ができる兄ちゃん。
美咲にとって頼れる肉親です。
両親を亡くしているため、終盤にかけて妹を思う気持ちが痛かったです…
一方で晴人に対しての接し方が急な印象もありました。
ストーリー的に誰が晴人と美咲の橋渡しになるかを考えたとき、お兄ちゃんかなぁと予想はしていました。
が、いくら妹の願いだから、妹を元気にさせたいからといっても、晴人との再会までの過程が急すぎる感じはありました。
綾乃がいい味出してましたね。
女性目線での「若さとは」「結婚とは」「幸せとは」という視点。
この視点があったからこそ、美咲の苦悩が読者により鮮明に伝わるのかなぁと。
美咲といったん「さようなら」をした場面。
小説であることを忘れてしまうくらい頭の中でイメージができました。
再会したときには美咲がもうこの世にいない…なんてツラすぎるんだ!(´;ω;`)ウゥゥ…
綾乃のセリフ一言一言が序盤から重く感じましたが、物語全般を通して「お姉さん」という役割の人物でした。
個人的には美咲の診察を担当している神谷医師の視点もあってもよかったのかも、と思いました。
病気を知ったことで取り乱した兄、気丈に振舞いつつも内心では病に押しつぶされそうになりながら闘う美咲。
医師からすれば何人もいる中の一人の患者、という立場なので「有馬家」のみにどう向き合うかというのはフェアではないでしょう。
作品の中には美咲の心情を慮った表現もありますが、神谷氏視点の語りがあっても面白いと思いました。
ところで…この神谷医師、読んでいるときに想像したのはミッチーこと及川光博さんでした。
映画「明日の記憶」(2006年)で医者として登場しております。
「明日の記憶」では若い医師である吉田(及川光博)が若年性アルツハイマーの佐伯(渡辺謙)を担当しますが…
この吉田医師のイメージが『桜のような僕の恋人』の神谷医師とどうしても重なってしまいます。笑
「明日の記憶」の吉田医師は眼鏡を掛けていないんですがね…
神谷医師はきちんと美咲の病気と向き合う人物として描かれていました。
難病という運命を負った女性の物語
『桜のような僕の恋人』をひとことで言ってしまうと「美咲の闘病記」です。
健康体である夢を叶えるためにスタートラインに立った美咲が、徐々に難病である早老症により苦しんでいく…
周囲は支えつつも、葛藤や無力感により苦しみ悩みながら美咲と生きていく…
当然、その中に登場人物同士の関係が絡みあい、生き方や考え方を学ぶことができます。
昨今流行りの「感動させるためのテーマ=人の死」というより、「一人の女性の運命」にスポットを当てている感じがしました。
泣かせにきているというより自然と涙が出るといったほうが正しいような作品であり、男性視点か女性視点かで感想や評価が変わるかもと思った作品でもあります。
女性読者は先に述べた「若さ」「結婚」「幸せ」という部分が、男性読者は「無力な自分」「働くとは」「大切な人を守る」みたいな部分に共感が得られやすいのではないでしょうか。
全体的に軽快なテンポで物語が進んでいくも、印象深い表現が散りばめられるなど読みやすい作品だと思います。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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