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李徴は腹黒い?『山月記』を面白く読むための3つのポイント

ぴよすけです。

 

中島敦の代表作、『山月記』は普通に読んでもおもしろいです。

想像を膨らませるともっとおもしろいです。

 

特に李徴という主人公、本当はめちゃくちゃ腹黒いんですよ?

え!?学校ではそんなこと習わなかった?

 

そんなあなた、まだまだ『山月記』がおもしろく読めますよ!

 

この記事では『山月記』の3つのおもしろい読み方を紹介しています。

きっと今までとは違った李徴が発見できますよ。

 

 

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ポイント① ずるがしこい李徴!さすが秀才、頭はいいけど人間性が…

ずるがしこい李徴!さすが秀才、頭はいいけど人間性が…

物語を通して李徴は頭がいいという設定ですが、必ずしもプラスの方向性にその能力が発揮されるわけではないように見える部分があります。

袁傪に気づいてもらうために…

まず紹介するのは袁傪と李徴が再開する場面です。

残月の光を頼りに林中の草地を通っていったとき、はたして一匹の猛虎が草むらの中から躍り出た。虎はあわや袁傪に踊りかかるかと見えたが、たちまち身を翻して、もとの草むらに隠れた。草むらの中から人間の声で「危ないところだった。」と繰り返しつぶやくのが聞こえた。その声に袁傪は聞き覚えがあった。驚懼のうちにも、彼はとっさに思い当って、叫んだ。「その声は、我が友、李徴子ではないか?」

この猛虎が李徴ですね。

虎に変身した李徴が袁傪に襲い掛かろうとしてしまって、もといた草むらに隠れるというシーンです。

 

李徴からすれば友人の袁傪を傷つけずに済んだ、と思える場面です。

 

しかし問題は草むらに隠れたときの行動です。

この場面、不自然だと思いませんか?

 

草むらの中から人間の声で「危ないところだった。」と繰り返しつぶやくのが聞こえた。

 

危なかった、危なかった、危なかった、危なかった……

 

なんかおかしいですよね?

 

仮に普段の生活の中で、出合い頭に誰かとぶつかりそうになったとき「危なかったぁ~」とは言いますが…

繰り返し「危なかった、危なかった、危なかった…」とつぶやく人をぴよすけは見たことがありません。笑

 

で、物語の流れは袁傪が声を聞いて李徴だと思い当たるのです。

 

つまり李徴が袁傪に気づいてもらうために自分の声を聞かせたのでは?という想像ができるのです。

 

李徴の涙ぐましい努力…

自分、ここにいますよアピール。笑

 

なんだかんだで自分大好き

これは読み進めれば誰もが気づきますが、結局李徴は自分が大好きだったということです。

李徴&袁傪 心の友との再会と別れまで
  • Step1
    再開を懐かしむ
    虎に変身するまでの流れを聞いてくれ!
  • Step2
    李徴の自己分析
    テーマ「人間・李徴が消えてしまう恐怖」
  • Step3
    袁傪に依頼
    おれの詩を後世に伝えてほしい!
  • Step4
    再び李徴の自己分析
    テーマ「臆病な羞恥心と尊大な羞恥心」
  • finish
    再び袁傪に依頼
    妻子の面倒をみてやってくれないか…

 

だいたいこんな感じでストーリーが進みます。

 

袁傪は話すどころか聞きっぱなし。笑

しかも李徴が話す内容は、総じて自分に関係すること

最後の最後で「妻子のことを気にすることがない男だから、獣になってしまったんだ…」などと、それらしく弁明します。

 

そりゃあ友人の身に何らかの不幸があったら聞いてあげようとは思いますヨ。

 

しかしこりゃあ…

袁傪のやさしさを見抜いた上で、言いたいこと・お願いしたいことをバンバン一方的に伝えているだけのような気が…。

 

ここまで自分のこと大好きな李徴だからこそ、このお話が面白いんですけどね。

 

李徴はウソ泣きしていた?

これはもう想像の域を出ませんが…

ここまでぶっとんだ李徴ならやりかねないという妄想です。

 

実は李徴は袁傪と会話しているとき、草を隔てて話しているので李徴がどんな顔をしているかわからないんですね。

※クリックすると別ウインドウで画像が開きます

こんな具合で物語が進められているんです。

で、最後だけ袁傪たちの前に姿を現して再び姿をくらまします。

 

つまり、どんな表情でいるかの描写がないため、李徴のセリフと声の様子しか袁傪・我々読者もわからないわけです。

※クリックすると別ウインドウで画像が開きます

もしかしたらこんな顔でいろいろかんがえていたのかも…

 

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ポイント② 李徴を呼ぶ声の正体は…?

李徴を呼ぶ声の正体は…?

李徴が虎に変身するまでを振り返っている部分に、次のような一節が登場します。

今から一年ほど前、自分が旅に出て汝水のほとりに泊まった夜のこと、一睡してから、ふと目を覚ますと、戸外で誰かが我が名を呼んでいる。声に応じて外へ出てみると、声は闇の中からしきりに自分を招く。

 

この声を追っていったところ、李徴は虎に変身してしまったんですね。

 

李徴を呼ぶ声の正体は何だったのか、最後まで明らかになることはありません。

声の正体についてはいろいろな意見や想像ができる部分です。

 

 

たとえば神の声だったとか

(「運命」「理由もわからずに押し付けられたものをおとなしく受け取って、理由もわからずに生きてゆくのが我々生き物のさだめ」とあるから)

 

 

もしくはすでに発狂していたから李徴の幻聴だったとか

(冒頭部分で李徴は急に目を覚まし、わけのわからないことを叫んで走り出したから、すでに李徴はおかしかった)

 

 

あるいは李徴自身の心の声だったとか

(後半部分で「臆病な自尊心と尊大な羞恥心」が説明されるから)

 

 

などなど、読み手によってはいかようにも解釈できる部分です。

声の正体を考えながら読むと、また違った発見があるかもしれませんね。

 

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ポイント③ 李徴が変身したのは、なぜ「虎」だったのか?

李徴が変身が虎である理由

作者の中島敦は、中国の古典『人虎伝』をモデルにして『山月記』を完成させました。

『人虎伝』でも李徴が虎に変身してしまうのですが…

 

なぜ、虎なのでしょうか?

 

本文中では明確に虎だったという理由が書いてありません。

書いてあるのは次のようなことです。

人間は誰でも猛獣使いであり、その猛獣に当たるのが、各人の性情だという。おれの場合、この尊大な羞恥心が猛獣だった。虎だったのだ。

 

猛獣だったら、他にもどう猛な動物はいますよね?ライオンとか…

 

一つの考察として、虎は中国で聖なる動物・どう猛な野獣という文化的側面があるのです。

中国では百獣の王といえば虎であり、獰猛な野獣としての虎は古くから武勇や王者のイメージとして受容され、軍事的シンボルや建国・出生譚、故事成語などに結びついている。虎と人間の生活が密接だった古代の中国や朝鮮など東アジアでは、虎をトーテムとして崇拝した氏族があり、その名残りから魔除けや山の神として一般的な崇敬の対象になった。虎は龍と同格の霊獣とされ、干支では年の始めに当たる寅に当てられている。虎舞もアジア各地に伝承されている。

一方で、虎は凶悪・危険・残酷といったマイナスのイメージとして比喩される。虎による被害の多い地域では虎にまつわる多くの民話が伝承されているが、ネガティブなイメージをもって語られるものが多い。

出典:Wikipedia

 

伝説の動物で白虎も虎ですよね?

そして有名な故事成語「虎の威を借る狐/狐虎の威を借る」も虎が登場します。

 

神に近しい動物であるということと、李徴が虎になる前に聞いた声の正体が神の声と考えれば一致する部分でもあります。

 

また、虎は凶悪・危険・残酷というイメージがあるため、李徴の人間性を象徴するために虎を用いているのかもしれません。

 

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自分でおもしろく想像するのが小説の醍醐味

高校生のときに読んで早十何年…

今でも李徴はこういう考えだったのかなぁという想像ができる小説です。

 

高校生だと「テストに出ないことを覚えたくない」という考えもわかりますが…

小説の世界をぜひおもしろく読んでもらいたいものです。

 

『山月記』が難しいと感じてしまう考察はこちらの記事で紹介しています。

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