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よるのばけもの 考察 解説

『よるのばけもの』を徹底考察!人物描写やタイトルに隠れた意味とは

ぴよすけです。

 

住野よるさん作『よるのばけもの』徹底考察編です。

約1万字による超大作記事となってしまいました。笑

 

『よるのばけもの』で気になる人物や意味ありげなセリフなどを考察をしています。

明かされないままの謎が多い、この作品。

本編を引用しながら解説していきます。

 

はじめに

本記事は『よるのばけもの』の考察記事となっています。
重大なネタバレを含んでおりますのでご注意ください。
なお、考察内容等はあくまで筆者の個人的な見解となります。

本記事の引用は『よるのばけもの』住野よる(2019年4月・双葉文庫)に拠っています。
引用部分の( )はページ数を示しています。

 

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夜休み中に現れた侵入者について

矢野と安達が夜休みに出会って数日後、警報ベルの音とともに侵入者の姿を発見します。

この侵入者が誰だったのか、最後まで明言されることはありませんでした。

ここではこの侵入者の正体の考察をしていきます。

侵入者は何をしていたのか

夜間の時間帯に学校で起こる事件の犯人だと思われます。

野球部の窓ガラスが割られていた、高尾の自転車が盗まれた、他にも中川の靴が中庭に捨てられていたなど、夜の間に起こった事件と関係があることがうかがえます。

 

侵入者の正体は緑川

この侵入者の正体は緑川双葉でしょう。

 

序盤あたりの事件では「いじめられていた矢野が仕返しをしていたのでは」という想像もしながら読みました。(あくまで初見、何の先入観もなしに読んだ場合)

 

ところが中盤から終盤にかけて、夜休みに矢野が不審な行動をしていないこと、さらに矢野が「追いつかなくなった」と犯人を知っているような表現を用いていることなどから、別の人物がいることが示唆されます。

 

矢野が犯人の素性を知っているような部分として、以下のことが挙げられます。

 

男子と推理した安達に対して女子の可能性を示唆

安達はシャドーで校庭を走る人影を目撃します。

見えたのは「ジャージを着ていて、細く、身長は低めだった気がする」「矢野さんほどじゃないにしても、低い身長と華奢な体つき、髪は、肩より下には垂れていなかった」というイメージです。

 

次の日に侵入者の話題になった際、安達が「笠井かも」と推理しますが、矢野が「女子かもよ」「(髪は)結んで短くしたのかも」などと侵入者=女子という可能性をそれとなく示しています。

 

「馬鹿」という表現を用いて、侵入者=緑川であることを示唆

侵入があった日の夜に矢野が「自分が持ってる目覚まし時計あたりを鳴らしちゃった相当な馬鹿だと思う」ということを言っています。

 

実は矢野が「馬鹿」と発言する部分は他にもあります。

矢野が「馬鹿」と発言する部分
  • P.76
    そんな馬鹿な子みたいなことしない
    野球部の窓が割られて安達の疑いに対して
  • P.83
    文字ばっかり読んでたら馬鹿になりそうだー
    本を読むのが好きかどうか話しているとき
  • P.164
    クラスの馬鹿な子かもね
    昨夜の侵入者に対しての矢野の意見
  • P.241
    たぶん追いつかなくなったんだよ、あの馬鹿
    野球部の窓が割られていないという安達の発言に対して
  • P.246
    なるほどだからあの馬鹿やめたんだ
    ハリー・ポッターの世界では物が生きているという会話の最中に
  • P.260
    喧嘩しちゃった元友達が、ひどいことされてて仲直りも出来なくて、誰に対しても頷くだけしか出来ないくせに責任を勝手に感じて本人の代わりに仕返しをしてる馬鹿なクラスメイト?
    体育館での会話の最中の発言

馬鹿」=「緑川双葉であることが「クラスにいること」「ハリーポッターを読んでいたこと」「喧嘩しちゃった元友達」「誰に対しても頷くだけしかできない」などから推測できます。

 

ちなみに安達に対しては「間抜け」という表現は出てくるものの「馬鹿」とは一度も言いません。

 

緑川の行為と、矢野との関係

緑川がなぜ窓ガラスを割ったり自転車を盗んだりしていたか、それは元友人である矢野へのいじめの仕返しだと考えられます。

 

矢野へのいじめとモノが壊される・盗まれるの日、緑川と安達の関わりをまとめたのが下記の表です

昼のできごと夜のできごと
元田が矢野の靴箱に何かしていた(おそらくカエルの死骸を入れた)野球部(=元田の部活)の窓ガラスが割られる
井口に使い終わったノートを落書きされる井口のノートに落書き
高尾中川が矢野の傘を壊した話をしていた高尾の自転車が盗まれる
机を蹴られる、紙屑をぶつけられる、上靴が水浸し

(特定の誰がやったという描写はない)

中川の上靴がボロボロの状態で中庭に捨てられる

侵入者を見つける

元田が矢野に暴言を吐き、黒板消しを投げつける
元田たちが校舎に侵入、安達が追い払う

野球部(=元田の部活)の窓が割られる

緑川と会話、緑川がハリーポッターを読んでいることを知る
 ハリーポッターの世界では物が生きていることに気づき「だからやめたんだ、あの馬鹿」と納得する

 

矢野へのいじめを行った人物に関係する何かが夜間に壊された(盗まれた)状態となっています。学校のセキュリティが心配だ

 

ではなぜ緑川は矢野へのいじめの報復をするのかということです。

緑川が矢野へのいじめの報復だと考えられるのは、かつて矢野と緑川が友人だったということに起因します。

 

緑川と矢野が友人関係にあったことについて

安達視点の地の文で次のような描写があります。

矢野はその日、何故だか、本当にその理由は分からないんだけど、何故だかその日に、クラスメイトの中で唯一、普段は近づきもしない緑川双葉の机に歩み寄った。(P.55)

 

また矢野のことをどう思っているのか、安達の視点では不明瞭なのがここの部分。

緑川は、どうなんだろう。
矢野が置かれている現状をどう思っているんだろう。(P.121)

 

主人公・安達は、あくまで笠井たちと行動している視点しか持ち合わせていないため、矢野と緑川が友人だったということについてよくわかっていません。

また矢野のセリフの中には緑川という固有名詞が出てこないため、矢野と緑川の本当の関係性は安達に(もちろん読者にも)見えていないことになります。

 

安達の視点だけという一面性で物事を判断するしかない読者にとって、矢野の「喧嘩した元友達がイジメられているため仲直りができず、誰に対してもうなづくことしかできない癖に勝手に責任感を感じて本人の代わりに仕返しをしている馬鹿なクラスメイト」という発言は大きな手掛かりになります。

 

この発言から得られる情報は2つあり、そのひとつが矢野は緑川と友人関係にあったということ。

そして2つ目がケンカをしたことで、矢野が本を投げ捨てたということです。

 

いじめられている矢野への責任を感じて、緑川が仕返しをしていた

安達の視点では矢野が緑川の本を放り投げ、二人の関係性が今でも崩れたままということになっています。

そして矢野が緑川の本を放り投げたことがきっかけで、矢野に対するいじめが始まったという事情が明かされます。

 

今でも二人の仲が修復されたか不明ではあるものの、矢野の発言を頼りにすれば、緑川は矢野へのいじめに責任を感じていることになります

その責任から矢野をいじめている連中に対して緑川が代わりに報復していることが読み取れます。

 

安達視点である読者の立場では矢野と緑川の関係がよくわからないままですが、矢野のセリフから二人は友人であったこと・緑川が矢野へのいじめの報復で物を壊していることが推測できます。

 

ハリーポッターの意味は何だったのか?

「ラピュタ派?ナウシカ派?」「トトロ派」というように、現実世界の作品が実名でいくつか登場します。

 

中でも物語終盤まで登場したのが「ハリー・ポッター」。

 

図書館で本を探す場面でも登場しますが、中でも体育館の場面では矢野がハリー・ポッターの話をしているときに何か合点がいったような描写があります。

(安達はわからずじまい=読者がモヤモヤしてしまう部分)

 

この体育館での矢野の合点は、緑川がハリーポッターを読んでいたことに因ります

 

矢野の「だからやめたんだ」という発言の「やめたこと」は「物を壊すこと」でしょう。

 

終盤、体育館のやりとりの中でハリー・ポッターが登場します。

 

仕返しで物を壊していた緑川は、物が生きているという世界のハリー・ポッターを読んでいました

そして読み終わった直後から物が壊されなくなったことに気付いた矢野は「だから(物を壊すのを)やめたんだ」という意味で発言したと思われます。

 

つまり

・侵入者は緑川である

・緑川はハリー・ポッターを読んでいた

・緑川はハリー・ポッターの世界のように窓ガラスや靴も生きていると思った

だから物を壊さなくなった

ということになります。

 

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笠井という人物

主人公・安達の友人として登場する笠井

ぴよすけはこの笠井という人物がどのような人物なのか、どうも掴めずにいました

クラスの中心人物という表現もある彼についての考察です。

 

笠井は矢野をかばったのか

物語中の謎というわけではありませんが、笠井の行動で特徴的なシーンの1つが昇降口での場面

中川の靴が中庭に捨てられていた日、中川は放課後に矢野の上履きにいたずらをしようとしていました。

 

そこに笠井と安達が登場、笠井が次のように言います。

「はっきりしたんだ」
「え?」
「あいつが中川の上靴をやったってはっきりしたんだろ?」
俺には出来ない、笠井の純粋な質問に、中川は唇を尖らせた。
「証拠はないけど、決まってんじゃん」
証拠だなんて、まるでこの間の探偵ごっこみたいだ。
井口のこともあったから、決めつけられたっておかしくないと思っていたんだけど、笠井はそう考えていなかったみたいだった。
「じゃあ、まだじゃね?」
笠井の答えが、中川には意外だったんだと思う。俺にとっても意外だった。(P.153・154)

 

一見すると笠井は矢野の靴にいたずらしようとした中川を止め、矢野をかばうような行為に見えますが…

 

結論を言うと、笠井が矢野をかばうために中川の行為を止めさせたという見方はできません。

 

その理由は、緑川と矢野から聞ける笠井の評価です。

 

笠井は矢野から「頭が良くて自分がどうすれば周りがどう動くかわかって遊んでいる男の子」、緑川からも「笠井君はすごく悪い子だよ」と言われています。

一方、身近な存在である安達は、矢野と緑川の評価を懐疑的に見ています。

 

ではこの中川に矢野をかばうように見えたシーンは何を意味するのか…

 

それは笠井という人物の性格を描写するシーンだったと考えられます。

 

笠井の性格

笠井はクラスの中心人物であるということと、頭がいいということが挙げられます。

さらに安達は笠井を「こうなったら面白そう」という部分がある人物だという評しています。

 

矢野の頭がいいという評価は、素の自分を隠しつつ、誰かをコントロールできるだけの立場や要領のよさを示しています。

 

笠井の「頭がいい」とは≠成績がいい(安達も「成績が悪い」と言っていた)

=要領がいい・知恵がある(特に悪い方面でその力を発揮)

 

スマホをいじる笠井が教師に見つかった際も、腹を立てて激高するのではなく、うまい感じにクラスの話題として提供している部分が見て取れます。

余程悔しかったのか笠井は「んだよぉ、皆持ってんじゃん中川とかぁ」と周りを巻き込もうとして愛あるひんしゅくを買っていた。(P.218)

 

つまり自分の思い通りに場を進めたり、他人の行動をある程度掌握することに長けていた=頭がいいということだと考えられます。

 

 

また緑川の「悪い子」というのは、自分が直接手を下さずに矢野をいじめている部分だと思われます。

笠井は、まぎれもなくこのクラスの中心人物だ。この、矢野に対する敵意で一丸となっているクラスの真ん中に、笠井はいる。
なのに、実のところ、笠井が矢野に何かをするということは全くない。(P.90)

 

つまり中川の行為をやめさせた理由は、次の2点によるものだと考えられます。

・クラスの中心人物である=自分の言ったとおりに人を動かせる掌握術

・直接手を下すことがない=いじめに加担していませんアピールが上手い

 

中川のいたずらをやめさせることで、自分はいじめてないというアピールをしつつ、いじめの中心的存在であり続ける…

とんでもなくずるがしこい、狡猾な人物として描かれているんです。

 

そんな笠井を友人としていた安達は大変だったんでしょうね。

 

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矢野が言っていた3人のクラスメイトの正体

矢野が体育館で次のようなことを言っています。

・いじめるのが好きなふりして、本当は誰かを下に見てないと不安で仕方ない女の子

・頭がよくて自分がどうすれば周りがどう動くか分かって遊んでる男の子

・喧嘩しちゃった元友達が、ひどいことされてて仲直りも出来なくて、誰に対しても頷くだけしか出来ないくせに責任を勝手に感じて本人の代わりに仕返しをしてる馬鹿なクラスメイト

 

この部分もそれぞれ誰のことを指しているのか、最後まで明らかにされませんでした。

 

ここまでの考察をまとめると、以下の2人が該当します。

喧嘩しちゃった元友達が、ひどいことされてて仲直りも出来なくて、誰に対しても頷くだけしか出来ないくせに責任を勝手に感じて本人の代わりに仕返しをしてる馬鹿なクラスメイト

この人物は緑川を指しています。

 

頭がよくて自分がどうすれば周りがどう動くか分かって遊んでる男の子

こちらは笠井と考えられます。

 

 

では「いじめるのが好きなふりして、本当は誰かを下に見てないと不安で仕方ない女の子」は誰なのでしょうか?

 

意見が分かれる部分ですが、個人的には井口を指しているのではないかと思います。

 

 

いじめるのが好きな「ふり」とあることから、いじめに積極的に関わりたくない人物ということになります。

あくまで安達視点でしか把握できませんが、いじめに消極的(=行動を起こさない)なのは井口です。

 

そもそも登場する女子生徒は井口・中川・工藤の3人くらいです。

 

まず中川の行動をまとめると次のようになります。

 

中川の行動まとめ・高尾と一緒に矢野の傘を壊す
・自分の上靴が捨てられていたのを矢野のせいときめつけて仕返しをしようとした
・矢野が井口をビンタしたシーンでは、矢野の髪の毛を引っ張った

次に工藤の行動です。

 

工藤の行動まとめ・ジュースのパックを矢野にぶつける
・物語最後には矢野に挨拶を返した安達を睨みつけ、安達から机を離す

 

中川も工藤も積極的に行動を起こしているように見えますね。

 

井口は安達から見て矢野のいじめに積極的に関わろうとしていないこと、また女子たちに言われて仕方なくノートに落書きをしたことが挙げられます

 

 

さらに「誰かを下に見ていないと不安で仕方ない」という部分。

矢野のノートに落書きをした場面で「しょうがない」と言いながら次のようなことが出てきます。

井口の告白が、本人には出来ない謝罪を、代わりに俺にしているような口ぶりだったから。(P.100)

 

自分がクラスの中でいじめられる対象から外れることを考えている=矢野とは別の立場でいたいという井口の意思表示のように見て取れます。

 

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能登先生の役割

唯一といっていい、大人の主要人物

他の教師が名前さえ出されないのに能登先生という固有名詞がついている女性です。

 

①すべてを見抜いている作者の視点

大人の中でも思慮深く、それでいて個々に生徒の性質を把握している存在です。

能登は、注意する時の口は悪いけど、面倒見のいい保健室の先生だ。(P.36)

 

緑川が保健室を訪れていたり、矢野に「大人になったらちょっとは自由になれる」というアドバイスをしたり…

笠井を簡単にいなすわりに、安達には「あんまり無理をするな」という気遣いをしてきます。

 

能登先生は、物語の主要人物たちの思いや視点を見越している作者の分身のような存在として登場しているのでしょう。

 

②安達を心配していたのはなぜか

ではなぜ安達に無理せず休んでいいと言ったのか。

能登先生は安達がクラスで感じる無意識レベルでの居心地の悪さに気づいていた可能性があります。

 

最初に能登先生のもとを訪れたのはサッカーをしていた昼休みのこと。

ケガをしてから保健室に向かうまでのシーンでさらっと次のような表現が登場します。

後は、笠井が上手く言っておいてくれるだろう。俺は、グラウンドから校舎に戻りつつほっとしていた。(P.34)

 

安達はサッカーがたしかに得意というわけではないとありますが、「ほっとした」とあることから積極的に仲間たちと交流しようというわけでもありません。

 

そして能登先生のもとを訪れた日の夜、矢野に昼休みに休めたかと聞かれて次のような描写が登場します。

うん、とも、いいや、とも言わなかった。今日の昼休みのことを思い出す。カツ丼とうどんを食べて、サッカーをして、怪我をして、能登先生に会った。休、めたかどうか。(P.42)

 

安達は矢野いじめについては積極的に行動していたわけではなかったにせよ、矢野を無視するということを自分で行いながらもクラスの雰囲気に辟易している部分が多々あります。

その辟易している部分を「しかたない」と言ったり、「仲間意識」という客観的な表現を使ったりしています。

そして最終的には自分という立ち位置を悩ませていく結果になるのですが…

 

このクラス内での立ち位置や振る舞いに安達が無意識レベルで「悩んでいる」もしくは「疲れている」というのを能登先生は見抜いていた人物として描かれているのではないでしょうか。

 

そのため「大変だったら休め」というのは「(矢野がいじめられている光景を見て)つらくなったらいつでも休め」と安達にアドバイスしていたのではないかと見れます。

ちなみに笠井と一緒にいるときには声を掛けていません。(=笠井の本質を見抜いていた?)

 

③矢野の夜休みは能登先生のおかげ

作中では何度も「警備員」という言葉が登場します。

が、読んでいると「本当にこの学校に警備員がいるのか…?」と思うくらい、警備員が登場しません。

(そして最終的に一度も登場せず)

夜休み中に警備員が来ないのは、決して警備員がポンコツだからということではないでしょう

 

おそらく矢野の夜休みを知っていた能登先生が「夜の〇時~〇時に、女の子が校舎にいる」「その子は昼間にいじめられている可能性があるから、夜の学校に来ることを許してもらいたい」などという手筈を整えていたのかもしれません。

 

本当に矢野自身が警備員を説得したのかもしれませんが、能登先生が矢野の事情を知っていることを考えれば、夜中に学校に来ることを警備員側は認めていたことになるでしょう。

 

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タイトル『よるのばけもの』に込められた意味

タイトルも様々に読める作品ですね。

「よるのばけもの」とはどういう意味なのか、3つ挙げてみました。

①ばけものに変身してしまう安達の性質

文句なしにタイトル通りの意味です。

「夜になるとばけものに変身すること」を文字通り示しています。

 

②ばけもの=傷つけるもの

ばけものは怪物の類であるということから、誰かを傷つけてしまう象徴

連日夜休みに矢野の元を訪れてはいたものの、実は安達の中にある「矢野に嫌われてしまえば楽だった」という、矢野を傷つけることを暗に示したものという意味です。

 

「昼の姿と夜の姿、どっちが本当?」

 

この表現は2回出てきます。

1回目は物語の序盤に次のように出てきます。

「どうし、て、人間に、化けて、るの?」
そんな可能性は思いもしなかった。ずれているクラスメイトに「夜になると変身するんだ」と正直に答えてから、変身という言葉がヒーローみたいだと、恥ずかしくなった。
「てっきり、そっちの姿で産まれ、たのかと思、った」(P.39)

安達はあくまで夜の姿は原因不明で、昼の間が本当の自分であるという回答をします。

 

終盤、再度同じ話題になり、安達は話の流れの中で「実はばけものである自分を怖がってほしかった」という意識があることに気付きます。

僕は、矢野さんに怖がってほしかった。彼女の言う通りだ。
理由は簡単だ。だって、そうすれば、もう、彼女のことを気にしなくても済むかもしれないから。(P.257)

 

終盤部分は外見が怖いかどうか、ということから話が始まっています。

しかし、話している最中に内面的な部分も含めて安達は自分が矢野を傷つけるばけものだったことに気づきます。

 

そして安達は、物語結末部分で「矢野と向き合うこと」を選択します。

ばけものではなく、人間の姿できちんと矢野と向き合うことができたため、最後の一文につながっていったと考えられます。

 

つまり「よるのばけもの」=「夜休みに矢野を傷つけていた見た目も中身も真っ黒な安達」を暗に示しているという解釈です。

 

③怖いとにんまり笑ってしまう矢野の笑顔

個人的な意見ですが…矢野がにんまり笑ってしまうかの謎が解けた瞬間、読んでいた自分は矢野が笑ってしまう理由に戦慄が走りました。

 

なぜなら笑ってしまう理由として、主人公と同じような理由を想像していた自分がいたからです。

(何があっても笑顔でいればツラくない!とか笑顔は元気の魔法!的な…もっと別の何か理由があるかも…みたいな考え)

 

そう考えてしまっていた自分もきっとばけものだったんだ、と思いました…

「本当は特別な理由なんかなく、ただただ怖がっていたんだ」ということが分かった瞬間、恥ずかしい気持ちになりましたよ。

 

それに気づかせてくれた矢野のにんまり顔は、ある意味ばけもの級の怖さがありました。

 

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まとめ:不思議は不思議なままで不思議

最後まで解明されることがない数々の謎。

なぜバケモノになっていたのかさえ、明かされることはありません。

 

 

つまり謎=不思議なことです。

作中に登場する「不思議は不思議なままで不思議」。

言い換えれば「謎は謎なままで謎

これに尽きる作品です。

 

ここまで考察してみましたが…

作者が答えを示したとしても、読み手は読み手なりに作品を味わい、出てきた気持ちを大切にするべきなのだ改めて思いました。

 

そう考えれば今回の考察も、一つの考え方・読み方のヒントであり、そこに正しさはありません。

これは創造されたものであり、現実世界で起きていることではありませんから。

しかし、いくら虚構の世界だったとしても、今後の自分の生きる糧として活かしていくことは可能です。

 

万人受けする内容ではないものの、想像力を働かせていろいろな視点で考えさせるのが作者の狙いではないかと思ってしまいます。

 


 

・いじめる側(というよりクラスでいじめの対象にならないようにしていただけ)の安達は、本来だったら矢野のいじめは望んではいなかったこと。

・井口が矢野のことを本当はどのように考えているかわからないこと。

・笠井のように一見気のいいムードメーカー的な誰にでもいい態度をとれる人間が、実は裏で腹黒いこと。

・文句なしに元田のようにいじめる側であり続ける人がいること。

・緑川のように無反応ではありながらも、実はいじめられている友達のために行動している人もいること。

・そして矢野の名前の由来である「さつき」、花言葉は「節制」。人との距離感がとれなくても、ひっそりと咲く花が好きだという少女の生き方。

 


 

様々なことに気付かせてくれる、この『よるのばけもの』という作品はとんでもなく価値が高い逸品なのかもしれません。

 

最後に……

 

「あー」
と言いながら袋を拾った矢野は、白い袋を開け中を覗くと「割れて、る」とつぶやいて、とぼとぼと教室後方に移動し、自分のロッカーの中にしまった。(P.234)


踏みつけた白い袋、ついた足跡の下に、よれた文字列、矢野の名前の他にもう一つ、見てしまったからだ。
『のとせんせいに』
へ、だろ。
しょうがないんだ、と心の中で何度も言った。(P.235)

 

このシーン、涙が出ました。

このような行為が現実世界で起きませんように。

夜になると、僕は化け物になる。寝ていても座っていても立っていても、それは深夜に突然やってくる。ある日、化け物になった僕は、忘れ物をとりに夜の学校へと忍びこんだ。誰もいない、と思っていた夜の教室。だけどそこには、なぜかクラスメイトの矢野さつきがいて――。

 

最後までお読みいただきありがとうございました。
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