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【漫画】『夕凪の街 桜の国』原爆ドームと水の塔公園の関係性

ぴよすけです。

こうの史代さんの作品『夕凪の街 桜の国』について、以前にあらすじと感想を記した記事の続編です。

今回は作品に登場する建物に注目した考察記事になっています。

 

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この記事では作中の登場人物の関係性に触れる内容となっています。

登場人物相関図の紹介は以下の記事にまとめてあります。

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おことわり
今回の記事は実際の写真と織り交ぜながら記しています。
記事に掲載した写真はコロナが流行する前に撮影しました。

作中に登場する建物に注目!

この作品には全編通して2つの建物が意味ありげに描かれています。

おそらくこの作品を読んだ方は「ん?これは何かしら意味があるのでは?」と引っ掛かりを持つほどです。

まずは作中に登場する建物を見ていきます。

 

「夕凪の街」編:原爆ドーム

第一章「夕凪の街」編では広島が舞台ということもあり、原爆ドームが登場します。

出典:こうの史代『夕凪の街 桜の国』

でかでかと1ページ使って丁寧に描かれています!

 

他にも細かい部分でこんな感じで描かれています。

出典:こうの史代『夕凪の街 桜の国』

 

「桜の国」編:原爆ドームとよく似た建物

そして「桜の国」編では、原爆ドームによく似たこの建物が描かれています。

出典:こうの史代『夕凪の街 桜の国』

 

「桜の国(1)」の扉絵にもきっちり描かれています。

出典:こうの史代『夕凪の街 桜の国』

 

本編の小さなコマですが、こちらにも登場します。

出典:こうの史代『夕凪の街 桜の国』
出典:こうの史代『夕凪の街 桜の国』

 

天井部分の丸っこいシルエットといい、全体的な輪郭といい…なんとなく形が似ています。

 

建物の正体は野方配水塔

「桜の国」編に登場する原爆ドームによく似た建物は、東京都中野区にある野方配水塔と呼ばれる貯水タンクです。

重要文化財にも指定されている、明治時代に建てられた建造物です。

もともとは給水塔として利用されていましたが、現在ではその役目を終えて災害用の貯水タンクとして残っています。

なんでも大戦時には機関銃の痕跡が残っているのだとか…

 

出典:こうの史代『夕凪の街 桜の国』

 

野方配水塔がある敷地は「水の塔公園」と呼ばれています。

出典:こうの史代『夕凪の街 桜の国』

 

原爆ドームと野方配水塔の登場シーン

この配水塔と原爆ドームが作中では何度も登場します。

原爆ドーム:4回(夕凪の街~桜の国)

野方配水塔:8回(桜の国)

 

数字だけ見るとそこまでではないかも?

しかし背景でここまで印象に残るような描き方をしてらっしゃる作品もあまり見たことがありません。

次に2つの建物の作中での関連性を考えてみました。

 

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作品テーマから見る建造物

映像作品や小説に登場する構造物は、登場人物の変化や物語性における重要な役割を担っていることがあります。

今回紹介している『夕凪の街 桜の国』でも同じことが言えます。

 

作品に登場する建造物の考察は、こちらの記事に詳しくまとめています。

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作品テーマは被爆者・被爆者2世の苦しみ

この作品テーマ(=作者が伝えたかったこと)は被爆者や被爆者2世が今でも苦しんでいるということだと思われます。

以下に章ごと詳しく解説していきます。

「夕凪の街」編 皆実と原爆ドーム

かつて戦後まもない広島を舞台にした皆実の壮絶な人生。

「夕凪の街」編では原爆ドーム=苦しみの象徴として用いられています。

出典:こうの史代『夕凪の街 桜の国』

このシーンの前には「わかっているのは『死ねばいい』と誰かに思われたということ」「思われたのに生き延びていること」など、原爆被害者としての苦悩や親しい者を失った苦しみを抱いています。

「桜の国」編 七海と貯水タンク

一方、50年後の「桜の国」編の主人公である七波は野方配水塔が近くにある中野区で暮らしています。

出典:こうの史代『夕凪の街 桜の国』

 

「桜の国」編で、東子ちゃんの両親が凪生に対し、「娘ともう会わないでほしい」ということを伝えた描写が見られます。

 

なぜ両親は凪生に対してこのようなことを言うのか…

それは凪生が被爆者2世だからです。(=七波も被爆者2世です

そして、2人はこの被爆者2世という呪縛(戦争が終わって50年が経つ現在、直接被爆したわけでもないのに、偏見や死の恐怖)に苦しんでいます。

 

その苦しんでいる七海とともに、この野方配水塔が描かれています。

つまり、かつてのヒロシマ、ひいては被爆者を想起させるモチーフとして用いられていると見ることができます。

 

配水塔=被爆による苦しみが続く象徴ですが、その水の塔公園で一緒に遊んだのが利根東子ちゃんです。

七波は「桜の国(2)」で成長した東子ちゃんと再会しますが「会いたくなかった」と思います。

その理由は、幼少期に母と祖母が亡くなった中野区での生活を思い出すから。

トラウマを想起させるような存在として東子ちゃんも描かれていますね。

 

ちなみに「桜の国」は東京を指すのでしょう。

桜の代表格「ソメイヨシノ」は東京都の花として制定されています。

 

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(おまけ)他にもあった! ヒロシマを想起させる建造物

この作品には広島:原爆ドームと東京:野方配水塔以外にも二つの場所を結びつける建造物が登場しています。

 

それが橋です!

広島では2か所の橋が出てきます。

場面①打越氏と皆実

出典:こうの史代『夕凪の街 桜の国』

場面②旭と京花

出典:こうの史代『夕凪の街 桜の国』

東京でも実は出てきていて、しかも配水塔と一緒に描かれているシーンもあります。

場面③旭と京花(東京都中野区)

出典:こうの史代『夕凪の街 桜の国』

 

これは野方配水塔がある水の塔公園付近にある「片山橋」という陸橋です。

 

おそらくこの橋も皆実・京花から七波へと世代を超えて今なお続く苦しみの象徴であり、当時のヒロシマを想起させる役割を担っているのかもしれません。

 

 

最後までお読みいただきありがとうございました。
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